はじめに

複数の企業が共同で出資し、契約に基づいて1つの会社を共同支配するジョイントベンチャー(合弁会社)の設立は、企業結合のうち「共同支配企業の形成」として扱われます。取得(M&A)とは異なり、いずれの当事企業も相手を一方的に支配するわけではないため、時価評価やのれんを伴うパーチェス法ではなく、帳簿価額を引き継ぐ処理が適用されます。

本記事では、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」に基づき、共同支配企業の形成の判定要件と、共同支配企業側・共同支配投資企業側それぞれの会計処理を、実務の流れに沿って解説します。

概要

共同支配企業の形成の処理は、まず形成要件の判定から始まり、共同支配企業側と共同支配投資企業側の処理に分かれます。

1. 形成判定(第37項:対価=議決権株式/支配関係を示す事実がない)
    ↓
2. 共同支配企業(受入側):移転資産・負債を帳簿価額で計上(第38項)
    ↓
3. 共同支配投資企業(出資側)
    ├─ 個別:投資(共同支配企業株式)を帳簿価額で計上、移転損益なし(第39項(1))
    └─ 連結:投資に持分法を適用(第39項(2))

「取得ではない=簿価引継ぎ・移転損益なし」という原則を、受入側と出資側の両面で一貫して適用する点が処理の骨格です。

具体的な会計処理

ステップ1:共同支配企業の形成と判定する(第37項)

ある企業結合を共同支配企業の形成と判定するためには、共同支配投資企業となる企業が、複数の独立した企業から構成されていること等に加え、次の要件を満たす必要があります(第37項)。

要件

内容

(1) 対価の種類

企業結合に際して支払われた対価のすべてが、原則として、議決権のある株式であること

(2) 支配関係の不存在

支配関係を示す一定の事実が存在しないこと(注8)

要件(1)は、現金等の財産を対価とする取得とは異なり、議決権株式の拠出によって共同で支配する関係が作られることを担保するものです。要件(2)の「支配関係を示す一定の事実」とは、いずれかの結合当事企業の役員等が結合後企業を支配する地位に就くこと、重要な財務・営業の方針決定を支配する契約等が存在すること、企業結合日後2年以内に投資した大部分の事業を処分する予定があること等を指します。これらの事実があると、実質的にはいずれかによる「取得」とみなされます。

ステップ2:共同支配企業(受入側)の処理(第38項)

共同支配企業の形成において、共同支配企業は、共同支配投資企業から移転する資産及び負債を、移転直前に共同支配投資企業において付されていた適正な帳簿価額により計上します(第38項)。

時価評価を行わず、のれんも計上しない点が、取得(パーチェス法)との決定的な違いです。

仕訳イメージ:共同支配企業が、A社から移転された事業(帳簿価額:資産300、負債100)を受け入れる場合

(借方)諸資産(A社の帳簿価額)  300,000,000
        (貸方)諸負債(A社の帳簿価額)  100,000,000
        (貸方)資本金・資本剰余金        200,000,000

複数の共同支配投資企業から事業を受け入れる場合は、各社の帳簿価額をそれぞれ引き継ぎます。

ステップ3:共同支配投資企業(出資側)の個別処理(第39項(1))

共同支配企業に事業を移転した共同支配投資企業は、個別財務諸表上、当該共同支配投資企業が受け取った共同支配企業に対する投資(共同支配企業株式)の取得原価を、移転した事業に係る株主資本相当額(移転直前の適正な帳簿価額)に基づいて算定します(第39項(1))。投資が継続しているとみるため、移転損益は認識しません。

仕訳イメージ:A社が、帳簿価額200(資産300・負債100)の事業を移転し共同支配企業株式を取得

(借方)共同支配企業株式  200,000,000  (貸方)事業に係る純資産(帳簿価額)  200,000,000

このように、出資側でも帳簿価額が引き継がれ、移転益・移転損は生じません。

ステップ4:共同支配投資企業(出資側)の連結処理(第39項(2))

共同支配投資企業は、連結財務諸表上、共同支配企業に対する投資について持分法を適用します(第39項(2))。共同支配企業は子会社ではなく共同で支配される企業であるため、連結(全部連結)ではなく持分法による一行連結となります。

区分

共同支配投資企業の処理

個別財務諸表

共同支配企業株式を帳簿価額で計上、移転損益なし(第39項(1))

連結財務諸表

共同支配企業に対する投資に持分法を適用(第39項(2))

持分法のイメージ:共同支配企業が当期純利益50を計上し、A社の持分割合が40%の場合

(借方)共同支配企業株式  20,000,000  (貸方)持分法による投資利益  20,000,000
      ※ 50,000,000 × 40% = 20,000,000

取得と共同支配企業の形成の比較

共同支配企業の形成は、取得(パーチェス法)と対比すると処理の違いが明確になります。同じ「企業結合」でも、判定結果によって時価評価・のれん・損益認識の有無が真逆になる点を押さえておくことが重要です。

論点

取得(パーチェス法)

共同支配企業の形成

受入資産・負債の評価

時価評価(第28項)

帳簿価額引継ぎ(第38項)

のれん

計上し得る(第31・32項)

計上しない

出資側の移転損益

投資清算時は認識

認識しない(第39項(1))

出資側の連結処理

子会社なら全部連結

持分法(第39項(2))

主な対価

現金・株式等

原則として議決権のある株式(第37項(1))

複数の共同支配投資企業がいる場合

共同支配企業は、通常2社以上の共同支配投資企業によって設立されます。各共同支配投資企業がそれぞれ事業や資産を拠出する場合、共同支配企業は各社から移転された資産・負債を、それぞれの移転直前の適正な帳簿価額で受け入れます(第38項)。出資側でも各社が自社の拠出事業について帳簿価額で投資を計上し、移転損益を認識しません(第39項(1))。各共同支配投資企業は、連結上それぞれの持分割合に応じて持分法を適用します。

留意点

  • 取得との峻別:第37項の要件を1つでも満たさない場合(例:対価に現金が含まれる、いずれかが結合後企業を支配する事実がある)は「共同支配企業の形成」とならず、取得(パーチェス法・時価評価・のれん)として処理する。形成判定が誤ると損益・のれんが大きく変わる
  • 支配関係を示す事実(注8)の確認:役員構成・方針決定を支配する契約・短期の事業処分予定等を丁寧に確認する。形式的に株式対価でも、実質的支配があれば取得となる
  • 簿価引継ぎの徹底:受入側(第38項)も出資側(第39項(1))も帳簿価額で処理し、移転損益を認識しない。時価評価・のれん計上をしないことを一貫させる
  • 持分法と未実現損益:連結で持分法を適用する際、共同支配企業との間の取引に未実現損益があれば持分相当額を消去する
  • 共同支配投資企業の開示(第54項):企業結合年度に重要な共同支配企業の形成がある場合、共同支配投資企業は所定の事項を開示する
  • 適用指針の併読:形成要件の具体的判定や算定は企業会計基準適用指針第10号を併せて確認する

まとめ

共同支配企業の形成の処理を整理すると、以下のとおりです。

ステップ

処理内容

1. 形成判定

対価=議決権株式/支配関係を示す事実がない(第37項)

2. 受入側

共同支配企業は移転資産・負債を帳簿価額で計上(第38項)

3. 出資側・個別

投資を帳簿価額で計上、移転損益なし(第39項(1))

4. 出資側・連結

共同支配企業への投資に持分法を適用(第39項(2))

共同支配企業の形成は、「取得ではない=時価評価・のれんなし、帳簿価額引継ぎ・移転損益なし」という原則を、受入側と出資側の双方で一貫して適用するのが理解の鍵です。まずは第37項の形成要件を満たすか(特に対価が議決権株式か、支配関係を示す事実がないか)を判定するところから始めてください。