はじめに

連結包括利益計算書は、企業集団が稼得した「当期純利益」だけでなく、その他有価証券の時価変動や為替換算差額といった、損益計算書を経由せずに純資産を直接増減させる項目までを含めた「包括利益」を表示する計算書です。投資家が企業集団の財産価値の変動を総合的に把握できるようにすることを目的としています。

本記事では、企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」に基づき、当期純利益から包括利益への調整、その他の包括利益(OCI)の内訳表示、親会社株主・非支配株主への帰属、そして実務で誤りやすい組替調整額(リサイクリング)の取扱いまでを、計算表と仕訳例を交えて解説します。

なお、包括利益の表示自体は企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」に詳細が定められていますが、連結損益及び包括利益計算書・連結包括利益計算書の位置づけは第22号第34項に規定されています。

概要

連結ベースの損益・包括利益の表示には、次の2つの様式が認められています(第22号第34項)。

【2計算書方式】
  連結損益計算書        … 売上高 → … → 当期純利益
       ↓
  連結包括利益計算書     … 当期純利益 → その他の包括利益 → 包括利益

【1計算書方式】
  連結損益及び包括利益計算書
       … 売上高 → … → 当期純利益 → その他の包括利益 → 包括利益
       (1つの計算書に連続表示)

いずれの方式でも、最終的に表示される包括利益の金額は同じです。本記事では理解しやすい2計算書方式を中心に説明します。

具体的な会計処理

ステップ1:当期純利益を起点に置く

連結包括利益計算書は、連結損益計算書で算定された「当期純利益」を起点とします。この当期純利益は、親会社株主に帰属する部分と非支配株主に帰属する部分の合計(区分前の総額)である点に注意します。連結損益計算書では、当期純利益を「非支配株主に帰属する当期純利益」と「親会社株主に帰属する当期純利益」に区分して表示します(第22号第39項の損益計算の区分に対応)。

項目

金額(千円)

当期純利益(総額)

50,000

(内訳)非支配株主に帰属する当期純利益

8,000

(内訳)親会社株主に帰属する当期純利益

42,000

ステップ2:その他の包括利益(OCI)を内訳別に加減する

当期純利益に、当期に発生したその他の包括利益(OCI)を内訳項目ごとに加減します。主な内訳は次のとおりです。

OCIの内訳項目

内容

その他有価証券評価差額金

その他有価証券の期末時価評価による評価差額の当期変動額

繰延ヘッジ損益

ヘッジ会計を適用した繰延ヘッジ損益の当期変動額

為替換算調整勘定

在外子会社等の財務諸表の換算により生じる差額(第16項の在外子会社の換算に関連)

退職給付に係る調整額

連結特有の未認識数理計算上の差異・過去勤務費用の当期発生・組替額

持分法適用会社に対する持分相当額

持分法適用会社のOCIのうち投資会社持分相当額

これらはいずれも、税効果調整後(純額)の金額で表示します。

ステップ3:包括利益を計算する

当期純利益にOCIの合計を加算して包括利益を算定します。

包括利益 = 当期純利益 + その他の包括利益(OCIの内訳合計)

連結包括利益計算書の様式例(2計算書方式)

項目

金額(千円)

当期純利益

50,000

その他の包括利益

その他有価証券評価差額金

3,000

繰延ヘッジ損益

△500

為替換算調整勘定

2,000

退職給付に係る調整額

△1,000

持分法適用会社に対する持分相当額

500

その他の包括利益合計

4,000

包括利益

54,000

(内訳)

親会社株主に係る包括利益

45,200

非支配株主に係る包括利益

8,800

ステップ4:親会社株主・非支配株主への帰属を付記する

包括利益は、その合計額に加えて「親会社株主に係る包括利益」と「非支配株主に係る包括利益」に区分した内訳を付記します。これは、子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分を非支配株主持分とする第22号第26項の考え方を、損益・OCIにも一貫して適用するためです。

非支配株主に係る包括利益は、「非支配株主に帰属する当期純利益」に、非支配株主に帰属するOCI(子会社で発生したOCIのうち非支配株主持分比率に対応する部分)を加減して算定します。

計算例:子会社(非支配株主持分20%)で発生したその他有価証券評価差額金が当期1,000千円増加した場合

非支配株主に帰属するOCI = 1,000 × 20% = 200(千円)
(残り800千円は親会社株主に係るOCIに帰属)

ステップ5:組替調整額(リサイクリング)を計算・注記する

組替調整額(リサイクリング)とは、過年度にその他の包括利益として認識した項目のうち、当期に実現等により当期純利益へ振り替えた(組み替えた)金額です。OCIを二重計上しないための調整であり、実務で最も誤りやすい論点です。

例:その他有価証券の売却

前期末にその他有価証券評価差額金として2,000千円(税効果調整後)を計上していた有価証券を、当期に売却して売却益2,000千円を当期純利益に計上した場合を考えます。当期のOCIでは、この実現分を控除(組替調整)する必要があります。

項目

金額(千円)

説明

当期発生額

0

当期の時価変動はなしと仮定

組替調整額

△2,000

売却により当期純利益に計上された分をOCIから減算

税効果調整前 計

△2,000

税効果額

600

実効税率30%と仮定

当期OCI(純額)

△1,400

売却時の仕訳イメージ(個別→連結への流れ)

(借方)現金預金        10,000,000  (貸方)投資有価証券      8,000,000
                                  (貸方)投資有価証券売却益  2,000,000

この売却益2,000千円は当期純利益に含まれるため、連結包括利益計算書のOCIでは同額(税効果調整後1,400千円)を組替調整額として控除します。これにより、過年度OCIと当期純利益との二重計上が回避されます。

組替調整額は、その他の包括利益の各内訳項目について、当期発生額と組替調整額の内訳を注記で開示します。あわせて、各内訳項目に係る税効果の金額も注記します。

組替調整が生じる主な場面

組替調整は、OCIとして繰り延べてきた項目が「実現」したタイミングで生じます。内訳項目ごとに、典型的な組替の契機を押さえておくと処理漏れを防げます。

OCI内訳項目

組替調整が生じる主な契機

その他有価証券評価差額金

当該有価証券の売却・減損処理

繰延ヘッジ損益

ヘッジ対象に係る損益が当期純利益に計上された時

為替換算調整勘定

在外子会社の売却・清算による支配喪失時

退職給付に係る調整額

未認識の数理計算上の差異・過去勤務費用の費用処理(償却)が進んだ分

当期発生額と組替調整額の注記様式(例)

注記では、各内訳項目について「当期発生額」と「組替調整額」を分けて表示し、その小計に税効果を加減して税効果調整後の金額を示します。

その他有価証券評価差額金

金額(千円)

当期発生額

5,000

組替調整額

△2,000

税効果調整前

3,000

税効果額

△900

その他有価証券評価差額金(税効果調整後)

2,100

このように、当期にどれだけ新たにOCIが発生し、どれだけが当期純利益へ振り替えられたのかを明示することで、利害関係者は包括利益の質(実現済みか未実現か)を判断できます。

留意点

  • 総額の起点に注意:連結包括利益計算書の起点となる当期純利益は、非支配株主帰属分を含む総額である。親会社株主に帰属する当期純利益を起点にしない
  • 税効果は純額表示が原則:OCIの各内訳項目は税効果調整後の純額で表示し、税効果額は別途注記する。税引前で本表に載せる方法(税効果を一括して別建てする方法)も認められるが、表示方法の継続適用が必要(第12項の継続性の原則)
  • 為替換算調整勘定の取扱い:在外子会社の換算差額はOCIに計上され、当該子会社を売却・清算した時点で組替調整の対象となる
  • 退職給付に係る調整額:連結では未認識の数理計算上の差異等を即時認識し、その当期変動額をOCIに計上する(個別財務諸表との重要な差異)。費用処理が進むにつれ組替調整が生じる
  • 非支配株主帰属分のOCI配分漏れ:子会社で発生したOCIを親会社株主分と非支配株主分に正しく按分しないと、親会社株主に係る包括利益が過大・過少になる
  • 持分法適用会社のOCI:持分法適用会社が計上したOCIのうち投資会社の持分相当額もOCIに含める

まとめ

連結包括利益計算書の作成は、次の流れで整理できます。

ステップ

処理内容

1. 起点設定

連結損益計算書の当期純利益(総額)を起点に置く

2. OCI加減

その他有価証券評価差額金・繰延ヘッジ損益・為替換算調整勘定・退職給付に係る調整額等を内訳別に加減

3. 包括利益算定

当期純利益+OCI合計で包括利益を算定

4. 帰属付記

親会社株主に係る包括利益・非支配株主に係る包括利益を付記

5. 組替調整

当期に当期純利益へ振り替えた額をOCIから控除し、内訳・税効果を注記

連結包括利益計算書は、当期純利益という「フロー」に、純資産を直接増減させるOCIを上乗せして企業集団の財産変動を総合表示する計算書です。実務では、(1)起点を総額の当期純利益にすること、(2)OCIを内訳別かつ税効果調整後で表示すること、(3)組替調整額で二重計上を防ぐこと、(4)親会社株主・非支配株主に正しく帰属させること、の4点を押さえれば、過不足のない計算書を作成できます。