はじめに

不動産業は、同じ「物件を引き渡す」取引であっても、完成済みの建物を売る分譲と、注文者の要望に応じて建てる開発受託とで会計処理が大きく分かれます。前者は引渡しの一時点で一気に収益が立ち、後者は工事の進み具合に応じて期間配分されます。

この違いを生むのが、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」が定める「一定の期間にわたり充足される履行義務」と「一時点で充足される履行義務」の判定です。本記事では、不動産業の典型取引を題材に、この判定軸と手付金・中間金の取扱いを実務の流れに沿って解説します。

概要

収益認識基準は、第17項に定める5つのステップ(契約の識別→履行義務の識別→取引価格の算定→履行義務への配分→充足時の収益認識)に従って収益を認識します。不動産業で特に判断を要するのは、第5ステップにおける「いつ収益を認識するか」、すなわち履行義務の充足時点です。

1. 顧客との契約を識別(第19項〜第31項)
    ↓
2. 履行義務を識別(第32項〜第34項)
    ↓
3. 取引価格を算定(第47項〜第64項)
    ↓
4. 履行義務に取引価格を配分(第65項〜第76項)
    ↓
5. 充足時に収益認識(第35項〜第46項)
   ├ 一定期間にわたり充足(第38項)→ 進捗度(第41項・第42項)で認識
   └ 一時点で充足(第39項・第40項)→ 支配移転時点で認識

不動産取引では、契約形態(完成在庫の販売か、注文に応じた建築か)によってこの分岐が決まります。

なお、判定にあたっては取引の法形式だけでなく経済的実質を見ることが重要です。たとえば「分譲」と称していても、契約上、未完成の段階から顧客がその区画・住戸を支配し、企業に他へ転用する権利がなく、完了部分の対価を収受する強制力のある権利がある場合には、第38項(2)・(3)に照らして一定の期間にわたる認識となり得ます。逆に、注文住宅であっても標準仕様の建売を顧客が選んで購入するに近い実態であれば、一時点認識が妥当となる場合があります。第38項の要件は契約条件に即して個別に当てはめる必要があります。

具体的な会計処理

一定期間か一時点かを判定する(第38項)

第38項は、次の(1)から(3)のいずれかを満たす場合に、資産に対する支配が顧客に一定の期間にわたり移転するものとして、一定の期間にわたり収益を認識すると定めています。

要件

内容

不動産での典型例

第38項(1)

企業の履行につれて顧客が便益を享受する

継続的な維持管理サービス等

第38項(2)

企業の履行により資産が生じる・増価し、顧客がその資産を支配する

顧客の土地上で建築する開発受託

第38項(3)

生じる資産に他に転用できる用途がなく、かつ完了部分の対価を収受する強制力ある権利がある

特定顧客向けの注文建築

第38項の(1)から(3)のいずれも満たさない場合には、第39項により一時点で充足される履行義務として、資産に対する支配を顧客に移転した時点で収益を認識します。

一時点での認識:分譲・建売(第39項・第40項)

完成した建物・宅地を不特定の顧客に販売する分譲(分譲マンション、建売住宅等)は、企業が完成在庫を保有し、顧客は完成物の引渡しを受けて支配を獲得する取引です。第38項の各要件を満たさないため、第39項により一時点で収益を認識します。

支配の移転時点を判断する際の指標は第40項に列挙されています。

第40項の指標

内容

(1)

対価を収受する現在の権利を有していること

(2)

顧客が法的所有権を有していること

(3)

物理的占有を移転したこと

(4)

所有に伴う重大なリスクを顧客が負い、経済価値を享受していること

(5)

顧客が資産を検収したこと

不動産では、所有権移転登記・物件の引渡し・代金決済が同時に行われる「引渡時点」で(1)から(5)の指標が揃うのが通常であり、引渡時点で収益を認識します。これは従来から実務に定着していた「引渡基準」と整合する取扱いです。

ここで第37項にいう「資産に対する支配」とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他者がこれらを享受することを妨げる能力を含む)を指します。鍵の引渡しや内覧後の検収をもって顧客が物件を自由に使用・処分できる状態になることが、支配の移転を裏づけます。手付金の収受や売買契約の締結だけでは支配は移転しておらず、収益認識のトリガーにはなりません。なお、第40項の指標は支配移転を判断するための補助指標であり、すべてを形式的に満たす必要はなく、契約条件に即して総合的に判断します。

仕訳例:分譲マンション1戸(販売価格5,000万円、簿価3,800万円)を引き渡し、手付金500万円は既受領、残金4,500万円を引渡時に決済した場合

(借方)契約負債(手付金)   5,000,000   (貸方)売上高(分譲収益)   50,000,000
(借方)現金預金            45,000,000
(借方)売上原価            38,000,000   (貸方)販売用不動産(棚卸資産)  38,000,000

一定期間での認識:開発受託・工事契約(第38項(2)・第41項・第42項)

注文者の所有する土地の上に建物を建築する開発受託や、第13項に定義する「工事契約」(土木・建築等の仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約)は、企業の履行により顧客が支配する資産が増価していくため、第38項(2)等を満たし、一定の期間にわたり収益を認識します。

この場合、第41項に従い履行義務の充足に係る進捗度を見積り、進捗度に応じて収益を認識します。進捗度の見積方法は、第42項により単一の方法を首尾一貫して適用します(アウトプット法・インプット法)。実務上は、発生原価が見積総原価に占める割合(原価比例法)によるインプット法が広く用いられます。

当期収益認識額 = 取引価格 × 当期末進捗度 − 前期末までの認識額
進捗度(原価比例法)= 当期末までの発生原価 ÷ 見積総原価

仕訳例:開発受託(請負金額1億2,000万円、見積総原価9,000万円)。当期末までの発生原価が3,600万円(進捗度40%)の場合

進捗度40% → 当期収益認識額 = 120,000,000 × 40% = 48,000,000

(借方)契約資産            48,000,000   (貸方)売上高(完成工事高)  48,000,000
(借方)売上原価(完成工事原価) 36,000,000   (貸方)未成工事支出金等      36,000,000

なお進捗度の見積りは、第43項により各決算日に見直し、変更がある場合は会計上の見積りの変更として処理します。また、進捗度を合理的に見積ることができないが発生する費用の回収が見込まれる場合には、第45項により原価回収基準(発生費用のうち回収が見込まれる額で収益を認識)を適用します。第44項により、進捗度を合理的に見積ることができる場合にのみ一定期間にわたる収益認識を行う点にも留意が必要です。

進捗度の測定方法には、アウトプット法(引き渡した成果に基づく方法。たとえば達成したマイルストーン、経過期間、施工済面積等)とインプット法(投入した資源に基づく方法。発生原価、投入労働時間等)があります。第42項は単一の方法を首尾一貫して適用することを求めており、契約の途中で方法を変えることはできません。不動産の開発受託では発生原価の進捗が成果の移転を最もよく表すことが多いため原価比例法が選好されますが、用地取得費のように契約初期に一時に発生し成果の移転を反映しない原価が大きい場合、そのまま原価比例法を用いると進捗度を過大に見せるおそれがあります。このようなケースでは、当該原価を進捗度の計算から除外する等の調整を検討します。

期末をまたぐ場合の翌期の仕訳例:上記の開発受託について、翌期末までの累計発生原価が6,300万円(累計進捗度70%)に達した場合

累計収益認識額 = 120,000,000 × 70% = 84,000,000 → 翌期計上額 = 84,000,000 − 48,000,000 = 36,000,000

(借方)契約資産            36,000,000   (貸方)売上高(完成工事高)  36,000,000
(借方)売上原価(完成工事原価) 27,000,000   (貸方)未成工事支出金等      27,000,000

完成・引渡しにより対価を請求する無条件の権利が確定した時点で、それまで計上していた契約資産を顧客との契約から生じた債権(売掛金・完成工事未収入金)へ振り替えます。

手付金・中間金の処理(第78項)

不動産取引では、契約時に手付金、工事の節目で中間金を受領するのが一般的です。第78項により、財又はサービスを顧客に移転する前に顧客から対価を受け取る場合、受け取った時に契約負債を計上します。これらは収益ではなく、支配の移転(一時点認識なら引渡時、一定期間認識なら進捗に応じて)に伴い収益へ振り替えます。

仕訳例:分譲物件の契約時に手付金500万円を受領

(借方)現金預金   5,000,000   (貸方)契約負債(前受金)   5,000,000

引渡時に契約負債を取り崩して売上高へ振り替える処理は、前掲の分譲の仕訳例のとおりです。

中間金を複数回受領する開発受託でも考え方は同じで、受領の都度、契約負債を計上します。一定期間にわたる認識を行う契約では、各決算日に進捗度に応じて認識すべき収益額(契約資産)と、受領済みの対価(契約負債)とを比較し、差額をいずれかの科目で表示します。すなわち、認識済み収益が受領額を上回れば契約資産(純額)、受領額が認識済み収益を上回れば契約負債(純額)として、同一契約内で相殺して表示する点に注意が必要です。手付金・中間金を「前受金」として一律に固定負債的に据え置くのではなく、進捗に連動して動的に整理する発想が求められます。

留意点

  • 契約形態による分岐の文書化:同じ不動産でも、完成在庫の販売(一時点)か注文建築(一定期間)かで処理が分かれる。第38項の判定根拠を契約ごとに文書化しておく
  • 引渡時点の指標の検討:第40項の(1)から(5)の指標は支配移転を判断する補助であり、機械的に充足数で決めるのではなく、契約条件に即して総合判断する
  • 進捗度の見積りの見直し:第43項により進捗度は各決算日に見直す。設計変更等で見積総原価が変動すると進捗度・収益認識額が変わるため、原価管理との連動が重要
  • 重要な金融要素:引渡しと代金回収の時期が大きく乖離し、契約に重要な金融要素が含まれる場合は、第56項から第58項により金利相当分の調整を検討する
  • 適用指針との併用:本会計基準の適用にあたっては、第2項により企業会計基準適用指針第30号(収益認識適用指針)を併せて参照する。不動産特有の設例・代替的取扱いの確認も必要

まとめ

不動産業の収益認識は、次の判定軸で整理できます。

取引類型

判定(第38項)

認識のタイミング

仕訳の中心

分譲・建売(完成在庫の販売)

一時点(第39項)

引渡時点(第40項の指標で判断)

引渡時に売上計上、手付金は契約負債から振替

開発受託・工事契約

一定期間(第38項(2))

進捗度に応じて(第41項・第42項)

進捗度で収益認識、契約資産を計上

受領した手付金・中間金

支配移転時に収益へ

受領時は契約負債(第78項)

不動産取引では、「完成したものを売るのか」「注文に応じて造るのか」という契約の本質が、一時点か一定期間かの判定を決めます。まずは自社の主要な物件類型ごとに第38項の判定を行い、手付金・中間金を契約負債として正しく区分するところから着手してください。