はじめに

連結財務諸表をIFRSで作成する企業や、将来のIFRS任意適用を検討する企業にとって、税効果会計の日本基準とIFRSの差異は無視できない論点です。税効果会計は資産負債法という共通の思想に立ちますが、財務諸表上の表示・分類、繰延税金資産の認識(回収可能性)、そして注記の範囲で違いがあります。

企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」は、まさにこの差異の一部を縮小するために、繰延税金資産・負債の表示区分をIFRSに整合させ、注記事項をIFRS(IAS第12号)を参考に拡充した基準です。本記事では、経営層・財務責任者の視点で、表示・分類・認識・注記の各観点から両者を比較し、コンバージェンスの到達点と残る差異を整理します。

概要

日本基準とIFRSの税効果の差異は、次の4つの観点で捉えると見通しがよくなります。

1. 表示・分類(流動/非流動、相殺)
    ↓
2. 認識(繰延税金資産の回収可能性の判断枠組み)
    ↓
3. 注記(開示範囲)
    ↓
4. コンバージェンスの経緯と残る差異

このうち表示・分類は企業会計基準第28号により大きくIFRSへ寄せられ、注記も同基準で拡充されました。一方、認識の判断枠組みには依然として違いが残ります。

具体的な会計処理

ステップ1:表示・分類の比較

かつての日本基準では、繰延税金資産・負債を関連資産・負債の分類(流動・固定)に応じて流動区分と固定区分に分けて表示していました。これに対しIFRS(IAS第1号「財務諸表の表示」)は、繰延税金資産・負債を流動・非流動を区分する表示形式においてすべて非流動として表示することを求めています。

企業会計基準第28号は、この日本基準の取扱いをIFRSに整合させ、次のように改正しました(同基準第1項・第2項)。

区分

改正後の日本基準の表示

繰延税金資産

投資その他の資産の区分に表示

繰延税金負債

固定負債の区分に表示

すなわち、流動区分には表示せず、すべて非流動(投資その他の資産/固定負債)に表示します。これは企業会計基準第28号が改正前の取扱いを見直した中心的な論点であり、同基準の結論の背景(第12項〜第17項)でも、IFRS(IAS第1号)が非流動区分表示を求めていること(第13項)を踏まえ、国際的な会計基準への整合を図る趣旨が説明されています。

相殺表示については、同一の納税主体に係る繰延税金資産と繰延税金負債は双方を相殺して表示します(日本基準・第28号第2項)。IFRS(IAS第12号)も、一定の相殺要件(同一の課税当局による法人所得税であること等)を満たす場合に相殺します。基本的な方向性は共通ですが、相殺の要件設定には細部の違いがあります。

観点

日本基準(第28号改正後)

IFRS(IAS第1号・IAS第12号)

流動/非流動の区分

すべて非流動(投資その他の資産/固定負債)

すべて非流動

相殺表示

同一納税主体内で相殺

一定の相殺要件を満たす場合に相殺

ステップ2:認識(回収可能性)の比較

繰延税金資産の認識(計上できるか)の判断枠組みには、明確な違いがあります。

観点

日本基準

IFRS(IAS第12号)

判断の枠組み

企業を分類1〜5に区分し、分類ごとに計上範囲を決める

「将来課税所得が生じる可能性が高い(probable)」範囲で認識

アプローチ

過去実績重視の定型的な分類を出発点とする

将来課税所得の蓋然性を直接判断

評価減の方法

回収不能分を評価性引当額として控除(資産は総額表示し控除額を注記)

回収可能と見込まれる範囲のみを資産計上(純額認識)

日本基準は過去の課税所得や欠損金の状況から企業分類を行い、分類に応じて計上範囲を画する定型的な枠組みを持ちます。IFRSは将来の課税所得が生じる可能性が高い範囲で認識するという、より原則主義的なアプローチです。結果として認識される金額が近づくことも多い一方、判断の組み立て方は異なります。

具体的な差が生じやすいのは、業績が不安定な局面です。日本基準では分類3・4に該当すると、スケジューリング期間(おおむね5年)や翌期の確実な課税所得の範囲という定量的な枠が先に来るため、計上範囲が定型的に絞られます。一方IFRSでは、将来課税所得の蓋然性を直接判断するため、合理的な事業計画により長期の課税所得が見込めると説明できれば、日本基準より広く認識される場合があります。逆に、日本基準の分類で形式的に計上できても、IFRSの蓋然性基準では認識が見送られるケースもあり得ます。この認識差は、IFRS移行時の繰延税金資産残高の調整(移行調整)として顕在化します。

なお、両基準とも個別の一時差異については「当初認識の例外」など認識を行わない場面が定められており、企業結合で生じたのれんに係る繰延税金負債の取扱いなど、論点ごとに細かな差異が存在します。連結IFRS化にあたっては、税効果の総額だけでなく、論点別に差異を洗い出すことが実務上は欠かせません。

ステップ3:注記の比較

企業会計基準第28号は、IFRS(IAS第12号)を参考にしつつ、税効果会計の注記を拡充しました。結論の背景では、第37項でIAS第12号が評価性引当額(未認識の繰延税金資産)に関する情報を求めていること、第48項で繰越欠損金等に関する情報を求めていることに言及し、これらを参考に注記事項を整備した経緯が示されています。

主な注記項目を比較すると次のとおりです。

注記項目

日本基準(第28号)

IFRS(IAS第12号)

発生原因別の主な内訳

必要(第19項(1)・第4項)

必要

評価性引当額の内訳・重要な変動

重要な変動がある場合に内訳・主な内容を注記(第4項、注解(注8))

未認識の繰延税金資産に関する情報を注記

税務上の繰越欠損金

繰越期限別の数値情報、重要な繰延税金資産計上時の回収可能と判断した理由(第5項、注解(注9))

期限等を含む情報を注記

税率差異(率差)分析

税負担率と法定実効税率の差異原因の内訳(第19項(2))

税率差異の調整(リコンシリエーション)を注記

税率変更の影響

修正額・決算日後の税率変更の内容と影響(第19項(3)(4))

税率変更の影響を注記

第28号によって日本基準の開示はIFRSにかなり近づきましたが、個別財務諸表での開示要否(第28号第50項・第51項)など、開示の適用範囲には日本基準固有の整理が残ります。

開示範囲の差を具体的に見ると、第28号第50項は、評価性引当額の合計額に重要な変動が生じている場合の変動の主な内容、税務上の繰越欠損金に関する繰越期限別の数値情報、繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合の回収可能と判断した主な理由について、財務諸表提出会社の個別財務諸表でも注記することを求めています。一方、第51項では、評価性引当額の内訳に関する数値情報については個別財務諸表での注記の取扱いに別の整理を設けています。すなわち、すべての注記が連結・個別で一律に求められるわけではなく、項目ごとに開示の要否が分かれます。

IFRSではこうした「連結・個別での開示要否の区分」という発想は基本的になく、財務諸表(連結であれ個別であれ)に対してIAS第12号の注記要件が適用されます。日本基準が連結中心の開示と個別開示の負担とのバランスを取った整理をしているのに対し、IFRSはより統一的である、という違いとして理解できます。

ステップ4:コンバージェンスの経緯と残る差異

企業会計基準第28号の制定は、回収可能性適用指針・税効果適用指針の整備と併せて、表示と注記をIFRSに整合させるコンバージェンスの一環でした。結論の背景(第9項〜第17項、第37項・第48項)には、財務諸表利用者の分析ニーズ(税負担率の予測、繰延税金資産の回収可能性の不確実性の評価)に応えるため、IFRSの取扱いを参考にした検討過程が記されています。

コンバージェンスの到達点と残る差異を整理すると、以下のようになります。

項目

コンバージェンスの状況

表示・分類

非流動区分への統一によりIFRSと整合(第28号で改正済)

注記

評価性引当額・繰越欠損金・率差分析の拡充によりかなり接近

相殺

方向性は共通だが相殺要件の細部に差

認識の枠組み

日本基準の企業分類 vs IFRSの蓋然性判断という違いが残る

個別開示の範囲

日本基準は個別・連結で開示要否に差を設けるなど固有の整理

留意点

  • 表示組替えの影響:日本基準でかつて流動区分に表示していた繰延税金資産・負債が非流動へ組み替えられたことで、流動比率など一部の財務指標が影響を受ける。比較期間との整合や指標分析時の留意が必要
  • 認識差による金額差:企業分類(日本基準)と蓋然性判断(IFRS)では、繰延税金資産の認識額に差が生じうる。IFRS移行時にはこの差の検討が論点になる
  • 注記は接近しても同一ではない:第28号で注記は拡充されたが、IAS第12号と完全に一致するわけではない。連結をIFRS、個別を日本基準とする場合は両者の注記要件を別個に満たす必要がある
  • 相殺要件の確認:複数の課税当局・納税主体にまたがる場合、相殺の可否判断が日本基準とIFRSで異なりうるため、グループ全体での整理が必要
  • 適用時期の整理:第28号は平成30年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用され、適用は表示方法の変更として扱う(同基準第6項・第59項)。IFRSとの比較表を作る際は基準改正の前後を取り違えない

まとめ

税効果会計の日本基準とIFRS(IAS第12号・IAS第1号)の差異は、4つの観点で捉えると整理できます。

観点

日本基準

IFRS

コンバージェンス

表示・分類

非流動区分(第28号で改正)

非流動区分

整合済

相殺

同一納税主体内で相殺

相殺要件充足時に相殺

方向性は共通

認識

企業分類1〜5

蓋然性(probable)

枠組みに差が残る

注記

第28号で拡充

IAS第12号

かなり接近

企業会計基準第28号により、日本基準の税効果会計は表示・注記の面でIFRSに大きく歩み寄りました。一方で、繰延税金資産の認識の枠組み(企業分類と蓋然性判断)や個別財務諸表の開示範囲には依然として差が残ります。IFRSの任意適用や連結IFRS化を検討する際は、まず表示・分類の整合済領域と、認識・注記に残る差異とを切り分けて把握することが、移行コストとインパクトを見通す出発点になります。