はじめに

税効果会計は、会計上の利益と税務上の課税所得のズレ(一時差異)を、将来の税金への影響額として認識する手続です。その「税金への影響額」を計算する際に乗じる税率が法定実効税率であり、税効果会計のすべての金額計算の出発点になります。

法定実効税率は単純に「法人税率」を使うのではありません。法人住民税や事業税を含み、しかも事業税が翌期の損金になるという税法独自の仕組みを織り込む必要があります。本記事では、企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」を踏まえつつ、法定実効税率の算定式の意味、適用税率の決定ルール、そして決算開示で求められる税率差異分析(率差注記)の作り方を、実務の流れに沿って解説します。

概要

法定実効税率を巡る実務は、おおむね次の流れで進みます。

1. 構成税目の確認(法人税・地方法人税・住民税・事業税)
    ↓
2. 法定実効税率の算定(事業税の損金算入を割戻し計算)
    ↓
3. 適用税率の決定(回収・支払見込時期の税率/改正税法の反映)
    ↓
4. 繰延税金資産・負債の測定(一時差異 × 適用税率)
    ↓
5. 税率差異分析(税負担率 と 法定実効税率 の差を注記)

法定実効税率は「測定に使う率」であると同時に、決算時に「実績の税負担率と比較される基準値」でもあります。この二面性を意識すると、なぜ注記で率差分析が求められるのかが理解しやすくなります。

具体的な会計処理

ステップ1:法定実効税率の構成税目を確認する

法人の所得に対して課される税金は、単一の「法人税」ではなく複数の税目の集合体です。法定実効税率は次の税目から構成されます。

税目

課税主体

性質

法人税

所得に対する基幹税

地方法人税

法人税額を課税標準とする付加的な税

法人住民税(法人税割)

都道府県・市町村

法人税額を課税標準とする

法人事業税(所得割)

都道府県

所得に対して課税。翌期に損金算入される

特別法人事業税

国(事業税に付加)

事業税(標準税率分)を課税標準とする

このうち会計処理上きわめて重要なのが事業税(および特別法人事業税)が支払時の事業年度に損金算入される点です。法人税・住民税は損金不算入であるのに対し、事業税だけは損金になるため、実効的な税負担を測るには割戻し計算が必要になります。

ステップ2:法定実効税率を算定する

法定実効税率は、次の算式で求めます。

                 法人税率 ×(1+地方法人税率+住民税率)+ 事業税率(特別法人事業税を含む)
法定実効税率 = ────────────────────────────────────────────────────
                                    1 + 事業税率(特別法人事業税を含む)

分母の「1+事業税率」が、事業税の損金算入効果を割り戻す部分です。事業税を支払うと翌期の課税所得が事業税分だけ減るため、税負担を1期間の率として表現する際にこの調整を行います。

数値例(標準的な水準を仮定):

構成要素

税率(仮定)

法人税率

23.20%

地方法人税率(法人税額に対して)

10.30%

住民税率(法人税額に対して)

7.00%

事業税率(所得割・特別法人事業税込み)

7.00%

分子 = 0.2320 ×(1 + 0.1030 + 0.0700)+ 0.0700
     = 0.2320 × 1.1730 + 0.0700
     = 0.272136 + 0.0700 = 0.342136

分母 = 1 + 0.0700 = 1.0700

法定実効税率 = 0.342136 ÷ 1.0700 ≒ 0.3198 = 約31.98%

注:上記税率はあくまで計算構造を示すための仮定値です。実務では各社の資本金区分・所在地・適用年度の税法に基づき算定してください。

なぜ分母で割り戻すのかを、もう少し直感的に説明します。いま所得が100あり、事業税率が7%だとすると事業税は7発生します。この事業税7は翌期に損金算入され、翌期の課税所得を7だけ減らすため、法人税・住民税の負担を間接的に軽減します。つまり事業税を1単位負担すると、その分だけ他の税の負担が将来減るという「自己軽減効果」があります。法定実効税率は、こうした事業税の損金算入を織り込んだうえで、1期間あたりの実質的な税負担を率として表現したものです。分母を「1+事業税率」とするのは、この損金算入効果を割り戻して年度間の負担を平準化する近似計算にほかなりません。

実務では、自社の資本金区分(外形標準課税の対象か否か)や事業所の所在地(超過課税を行う自治体か否か)によって税率が変わる点に注意します。外形標準課税対象法人では事業税のうち付加価値割・資本割は所得に比例しないため、法定実効税率の算定に用いるのは所得割(および特別法人事業税)部分です。複数の都道府県に事業所がある場合は、加重平均的に税率を求めることもあります。

ステップ3:繰延税金資産・負債に用いる適用税率を決定する

繰延税金資産・負債は、一時差異等が解消(回収・支払)されると見込まれる期の税法に基づく税率(適用税率)で測定します。実務上のポイントは次のとおりです。

  • 原則は決算日現在の税法に規定された税率を用いる
  • 決算日までに公布(成立)された改正税法により、将来の税率が変更されることが確定している場合は、解消見込年度に応じて改正後の税率を用いる
  • 税率が変更された場合、過年度に計上した繰延税金資産・負債を新税率で再測定し、その修正差額を当期の損益(または評価差額に対応するものはその区分)で調整する

なお企業会計基準第28号は、税率の変更により繰延税金資産・負債の金額が修正されたときはその旨と修正額を、また決算日後に税率変更があった場合はその内容と影響を注記することを求めています(同基準第19項に列挙された注記事項の(3)(4)に対応)。

ステップ4:一時差異に適用税率を乗じて測定する

たとえば将来減算一時差異(賞与引当金・貸倒引当金の損金算入限度超過額など)が5,000万円あり、適用税率を法定実効税率と同じ31.98%とした場合、繰延税金資産は次のように測定します。

繰延税金資産 = 50,000,000 × 0.3198 = 15,990,000

仕訳例:当期に将来減算一時差異から繰延税金資産1,599万円を計上する場合

(借方)繰延税金資産  15,990,000   (貸方)法人税等調整額  15,990,000

翌期に税率改正で適用税率が30.00%へ引き下げられた場合、同じ一時差異に対する繰延税金資産は 50,000,000 × 0.30 = 15,000,000 となり、99万円を取り崩します。

(借方)法人税等調整額  990,000     (貸方)繰延税金資産  990,000

ステップ5:税率差異分析(率差注記)を作成する

決算開示では、「税引前純利益に対する法人税等の比率(実績の税負担率)」と「法定実効税率」との差異を分析します。企業会計基準第28号第19項では、税効果会計に関する注記事項の一つとして、この税引前純利益に対する法人税等の比率と法定実効税率との間に重要な差異があるときの「当該差異の原因となった主要な項目別の内訳」が定められています。

税率差異は、永久差異や税額控除など「会計利益に税率を乗じた額」と「実際の税額」が一致しない要因から生じます。代表的な差異項目は次のとおりです。

差異項目

税負担率への影響

交際費等の損金不算入

増加(+)

受取配当金等の益金不算入

減少(−)

住民税均等割

増加(+)

試験研究費の税額控除等

減少(−)

評価性引当額の増減(繰延税金資産の回収可能性)

増加または減少

税率変更による期末繰延税金資産・負債の修正

増加または減少

率差注記の様式イメージ(金額は数値例):

法定実効税率                                       31.98 %
(調整)
  交際費等永久に損金に算入されない項目              2.10
  受取配当金等永久に益金に算入されない項目         △1.40
  住民税均等割等                                    0.80
  試験研究費の税額控除                             △3.20
  評価性引当額の増減                                1.50
  その他                                            0.22
───────────────────────────────────────
税効果会計適用後の法人税等の負担率                 32.00 %

このように、最上段の法定実効税率から各調整項目を加減して、最終的に実績の税負担率(税効果会計適用後の法人税等負担率)に橋渡し(リコンシリエーション)する形式が一般的です。

留意点

  • 均等割は税率差異に現れる:住民税均等割は所得に比例しない定額負担のため、必ず税負担率を押し上げる差異項目として現れる。赤字決算でも発生する点に注意
  • 評価性引当額の影響:繰延税金資産の回収可能性の見直し(評価性引当額の増減)は税率差異の大きな変動要因になる。企業会計基準第28号は第4項で評価性引当額に重要な変動が生じている場合の内訳注記も求めており、率差分析と整合させて開示する
  • 重要性がない場合の省略:税負担率と法定実効税率の差異が重要でない場合は、率差注記を省略できる。何をもって重要とするかは各社の状況に応じて判断する
  • 適用税率と法定実効税率の取り違え:率差注記の基準値は「法定実効税率」だが、繰延税金資産・負債の測定に使うのは「解消見込年度の適用税率」である。改正税法がある年度では両者がずれることがあるため区別する
  • 税率の改正時期:決算日後に成立した税率改正は当期末の測定には反映しないが、後発事象として影響を注記する必要がある(第19項(4))

まとめ

法定実効税率は、税効果会計のすべての金額計算と開示の基準となる中心的な数値です。論点を整理すると次のようになります。

論点

要点

構成税目

法人税・地方法人税・住民税・事業税(特別法人事業税含む)

算定式

分母「1+事業税率」で事業税の損金算入を割戻し

適用税率

一時差異の解消見込年度の税法に基づく率。改正税法は反映

測定

一時差異 × 適用税率。税率変更時は再測定して差額を損益調整

率差注記

法定実効税率 → 各調整項目 → 実績税負担率へのリコンシリエーション(第28号第19項)

まずは自社の法定実効税率を構成税目から正確に組み立て、繰延税金の測定に使う適用税率との違いを押さえること。そのうえで決算時に税負担率との差異を分解し、率差注記として説明できるようにしておくことが、税効果会計の実務品質を左右します。