はじめに

企業結合は、外部の他社を取得するケースだけではありません。親子会社間の事業移転や、グループ内会社同士の合併といった「企業集団内の組織再編」、複数企業が共同で支配する会社を作る「ジョイントベンチャー(共同支配企業)の形成」も、企業結合会計の対象です。

これらに共通するのは、取得(パーチェス法)とは異なり、原則として時価ではなく帳簿価額で引き継ぐという考え方です。本記事では、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」に基づき、共通支配下の取引と共同支配企業の形成の処理を、非支配株主との取引も含めて解説します。

概要

「取得」以外の企業結合の処理の骨格は次のとおりです。

【企業結合の3類型】
  取得 → パーチェス法(時価で受入れ・のれん認識)
  共通支配下の取引 → 簿価引継ぎ・差額は純資産・内部取引消去
  共同支配企業の形成 → 簿価引継ぎ(持分プーリング的)・持分法

【共通支配下の取引で併せて整理する論点】
  非支配株主との取引(追加取得・一部売却)

共同支配企業の形成(第11項参照)および共通支配下の取引(第16項)以外の企業結合は「取得」となります(第17項)。

具体的な会計処理

ステップ1:共通支配下の取引を判定する

「共通支配下の取引」とは、結合当事企業(または事業)のすべてが、企業結合の前後で同一の株主により最終的に支配され、かつ、その支配が一時的でない取引をいいます(第16項)。たとえば、100%親子会社間の事業譲渡、グループ内子会社同士の合併などが該当します。

取引例

該当性

親会社から子会社への事業移転

共通支配下の取引

完全子会社同士の合併

共通支配下の取引

親会社が外部から他社を買収

取得(パーチェス法)

ステップ2:移転する資産・負債を簿価で引き継ぐ

共通支配下の取引により企業集団内を移転する資産・負債は、原則として、移転直前に付されていた適正な帳簿価額により計上します(第41項)。取得(時価評価)とは異なり、含み損益は実現させず、のれんも原則として新たに生じません。

移転された資産・負債の差額は、純資産として処理します(第42項)。また、移転された資産・負債の対価として交付された株式の取得原価は、当該資産・負債の適正な帳簿価額に基づいて算定します(第43項)。

設例:親会社P社が、子会社S社へ事業(資産簿価300、負債簿価100)を移転し、対価としてS社株式を受け取る場合。

【S社(受け入れる側)】
(借方)諸資産  300   (貸方)諸負債      100
                      (貸方)純資産(資本等)200
  ※ 簿価で受け入れ、差額200は純資産として処理(第41・42項)

【P社(移転する側)】
(借方)S社株式  200   (貸方)諸資産(簿価)300
(借方)諸負債    100
  ※ 受け取った株式の取得原価は移転資産・負債の簿価ベース(第43項)

ステップ3:連結上は内部取引として消去する

共通支配下の取引は、企業集団内部の取引であるため、連結財務諸表上はすべて内部取引として消去します(第44項)。したがって、個別財務諸表上で生じた移転損益等は、連結上は実現していないものとして消去され、連結グループ全体の財政状態・経営成績には影響を与えません。

ここが共通支配下の取引を理解するうえでの要点です。仮に個別財務諸表上で移転に伴う損益が計上されたとしても、それはあくまでグループ内での資産・負債の付け替えにすぎず、連結グループという一つの経済主体から見れば何も実現していません。そのため簿価で引き継ぎ(第41項)、連結で消去する(第44項)という二段構えによって、グループ全体の数値が中立に保たれるよう設計されています。「個別では動くが連結では動かない」という現象は、共通支配下の取引で頻出するため、個別と連結のどちらの数値を見ているかを常に意識することが大切です。

取得との対比

「取得」と「共通支配下の取引」の処理の違いを整理すると、次のとおりです。

論点

取得(パーチェス法)

共通支配下の取引

受入評価

時価

移転直前の適正な帳簿価額

のれん

配分残余として認識

原則生じない

移転損益

(外部取引のため実現)

連結上は内部取引として消去

差額の処理

のれん/負ののれん

純資産として処理

ステップ4:共同支配企業の形成を処理する

共同支配企業とは、複数の独立した企業により共同で支配される企業をいいます(第11項)。ある企業結合を共同支配企業の形成と判定するには、企業結合に際して支払われた対価のすべてが原則として議決権のある株式であること(第37項(1))、支配関係を示す一定の事実が存在しないこと(第37項(2))等の要件を満たす必要があります。

共同支配企業の形成では、取得(時価)ではなく、簿価を引き継ぐ持分プーリング的な処理を行います。

主体

処理

根拠

共同支配企業(受け入れる会社)

共同支配投資企業から移転する資産・負債を、移転直前の適正な帳簿価額により計上

第38項

共同支配投資企業(個別)

移転した事業に係る投資(共同支配企業への投資)の取得原価は、移転した事業に係る株主資本相当額に基づいて算定

第39項(1)

共同支配投資企業(連結)

共同支配企業に対する投資について持分法を適用

第39項(2)

設例:X社とY社が事業を出し合い、共同支配企業JVを設立。X社が移転する事業(資産簿価500、負債簿価200、株主資本相当額300)の場合。

【共同支配企業JV(受入側)】
(借方)諸資産  500   (貸方)諸負債      200
                      (貸方)資本(純資産)300
  ※ 簿価で受け入れ(第38項)

【共同支配投資企業X社(個別)】
(借方)JV株式  300   (貸方)諸資産(簿価)500
(借方)諸負債    200
  ※ 投資の取得原価は移転事業の株主資本相当額300(第39項(1))
  ※ 連結上はJVへの投資に持分法を適用(第39項(2))

ステップ5:非支配株主との取引を処理する

共通支配下の取引と併せて整理すべきなのが、非支配株主との取引です。非支配株主から追加取得する子会社株式の取得原価は、追加取得時における当該株式の時価で算定します(第45項)。

非支配株主との取引(追加取得・一部売却)については、連結会計基準における子会社株式の追加取得および一部売却等の処理に準じます(第46項)。すなわち、支配が継続する範囲での持分変動差額は、損益ではなく資本剰余金として処理します。

【非支配株主からの追加取得(10%分を時価120で取得、対応する非支配株主持分減少100)】
(借方)非支配株主持分  100   (貸方)現金預金  120
(借方)資本剰余金        20
  ※ 差額は資本剰余金(第45・46項)。のれんは新たに計上しない

留意点

  • 「同一の株主による最終支配」「一時的でない」:共通支配下の判定は第16項の定義に厳密に当たる。一時的な支配や、支配が前後で同一でない場合は取得(パーチェス法)となり得る
  • 簿価=「適正な帳簿価額」:移転直前の適正な帳簿価額で引き継ぐ(第41項)。減損等で適正性を欠く簿価のまま引き継がないよう、移転前に簿価の適正性を確認する
  • 個別と連結のズレ:共通支配下の取引で個別上に生じる移転損益は、連結上は内部取引として全額消去される(第44項)。個別の数値だけで損益を判断しない
  • 共同支配企業の形成の要件:対価が原則すべて議決権株式であること等(第37項)。要件を満たさなければ「取得」となり、時価評価・のれん認識が必要になる
  • 非支配株主との取引は資本取引:追加取得・一部売却(支配継続)はのれんを動かさず資本剰余金で調整する(第45・46項)。資本剰余金が負となる場合の調整にも留意
  • 少数株主が存在する共通支配下の取引:子会社に非支配株主がいる状態でのグループ内移転では、移転の対価や持分の按分に少数株主の利害が絡む。簿価引継ぎを基本としつつ、非支配株主持分への影響を別途検討する必要がある
  • 税務との関係:組織再編税制(適格・非適格)の判定は会計処理とは別の枠組みで行われる。会計上は簿価引継ぎでも、税務上は時価取引として課税が生じる場合があるため、税務面の確認を併せて行う
  • 適正な帳簿価額の確認:移転前に対象資産の減損の要否や引当金の十分性を確認し、「適正な」帳簿価額となっているかを点検したうえで引き継ぐ(第41項)

まとめ

「取得」以外の企業結合の処理を整理すると、次のとおりです。

類型

処理

根拠

共通支配下の取引

移転直前の適正な帳簿価額で引継ぎ

第41項

同上:差額の処理

純資産として処理

第42項

同上:連結

内部取引として全額消去

第44項

共同支配企業の形成(受入側)

簿価で引継ぎ

第38項

同上:投資企業

投資は株主資本相当額/連結は持分法

第39項

非支配株主との取引

追加取得は時価取得・差額は資本剰余金

第45・46項

ポイントは、取得(時価・のれん)とは対照的に、共通支配下の取引・共同支配企業の形成では原則として簿価で引き継ぎ、のれんを生じさせないという点です。これは、いずれも「支配の所在が実質的に変わらない(または共同支配という形で分散する)」取引であり、外部との売買のように新たな投資原価が確定する局面ではないためです。したがって、含み損益を実現させず、簿価を引き継ぐという考え方が一貫して採られています。グループ内再編では「同一株主による最終支配が前後で継続しているか」をまず判定し、該当すれば簿価引継ぎ・内部取引消去という骨格で処理します。共同支配企業の形成では、対価が原則すべて議決権株式であること等の要件(第37項)を満たすかを確認します。いずれにも該当しなければ「取得」となり、時価評価・のれん認識が必要になります。まずは予定している組織再編がどの類型に当たるかを、第16項・第37項の要件に照らして確認することから始めてみてください。