はじめに
企業結合では、通常、対価を支払って支配を獲得した側が「取得企業」となり、相手方(被取得企業)の資産・負債を時価評価して受け入れます。ところが、合併や株式交換の形式によっては、法律上は存続会社・親会社となった企業が、会計上はかえって「被取得企業」とされ、消滅会社・子会社側が「取得企業」とされることがあります。これが「逆取得」です。
逆取得は、組織再編の法形式と会計上の取得企業の判定が逆転するため、実務担当者が処理を誤りやすい論点です。本記事では、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」に基づき、逆取得の判定の考え方と、個別・連結それぞれの会計処理、開示までを解説します。
概要
逆取得の処理は、まず会計上の取得企業を判定し、その判定結果が法形式と逆転していることを確認するところから始まります。
1. 企業結合が「取得」に該当するかの判定(第17項)
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2. 会計上の取得企業の決定(第18項~第22項:議決権比率・支配の実態)
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3. 法形式(存続会社・完全親会社)と会計上の取得企業が逆転 → 逆取得
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4. 個別財務諸表:存続会社等は取得企業の資産・負債を帳簿価額で引継ぎ(第34~36項)
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5. 連結財務諸表:会計上の取得企業を取得企業としてパーチェス法を適用
↓
6. 開示:第49項に加え第50項の事項
会計上の取得企業の決定は、主な対価の種類が株式である場合には、結合後企業に対する総体としての株主が占める相対的な議決権比率の大きさ等を勘案して判定します(第20項)。あわせて、結合当事企業のうちいずれかの相対的な規模(総資産額・売上高等)が著しく大きい場合には、その大きい企業が取得企業と推定されます(第21項)。
具体的な会計処理
逆取得が生じる3つの形式
逆取得は、企業結合の法形式に応じて3つの典型パターンがあります。企業会計基準第21号は、それぞれについて存続会社・完全親会社等の個別財務諸表における会計処理を定めています。
形式 | 法律上の主体 | 会計上の取得企業 | 根拠条項 |
|---|---|---|---|
吸収合併 | 存続会社 | 消滅会社 | 第34項 |
現物出資・吸収分割(子会社化) | 現物出資・吸収分割により設立・存続する会社 | 現物出資会社・吸収分割会社 | 第35項 |
株式交換(完全親子会社化) | 完全親会社 | 完全子会社 | 第36項 |
ケース1:消滅会社が取得企業となる場合(第34項)
吸収合併において、消滅会社が会計上の取得企業と判定される場合、存続会社の個別財務諸表では、当該取得企業(消滅会社)の資産及び負債を合併直前の適正な帳簿価額により計上します。
つまり、法律上は消滅する会社の帳簿価額が、存続会社の財務諸表のベースになります。被取得企業となる存続会社自身の資産・負債は、個別上は時価評価しません(時価評価による受入れは連結上の処理)。
仕訳イメージ:存続会社の個別財務諸表において、取得企業(消滅会社)の資産・負債を帳簿価額で引き継ぐ場合
(借方)諸資産(消滅会社の帳簿価額) 500,000,000
(貸方)諸負債(消滅会社の帳簿価額) 200,000,000
(貸方)資本金・資本剰余金 300,000,000
増加すべき株主資本(資本金・資本剰余金等)は、取得企業(消滅会社)の株主資本の額を基礎として算定します。のれんは個別財務諸表上は計上されません。
ケース2:現物出資会社・吸収分割会社が取得企業となる場合(第35項)
現物出資又は吸収分割による子会社化において、現物出資会社又は吸収分割会社が会計上の取得企業となる場合、現物出資会社・吸収分割会社の個別財務諸表では、移転した事業に係る資産及び負債を、移転直前の適正な帳簿価額に基づいて算定された価額により、子会社株式の取得原価とします。
項目 | 処理 |
|---|---|
取得企業(移転側) | 受け取った子会社株式を、移転した事業の株主資本相当額(帳簿価額ベース)で計上 |
移転損益 | 個別財務諸表上は認識しない(共通支配下類似の簿価引継ぎ) |
仕訳イメージ:吸収分割会社が、移転した事業(資産400、負債150)の対価として子会社株式を受け取る場合
(借方)子会社株式 250,000,000 (貸方)事業に係る純資産(帳簿価額) 250,000,000
ケース3:完全子会社が取得企業となる場合(第36項)
株式交換において完全子会社が会計上の取得企業となる場合(逆取得となる株式交換)、完全親会社の個別財務諸表では、当該完全子会社(取得企業)の株式交換直前における適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて、子会社株式(完全子会社株式)の取得原価を算定します。
法形式上は完全親会社が子会社株式を取得しますが、会計上の取得企業はその子会社側であるため、取得原価は時価ではなく取得企業(完全子会社)の帳簿価額ベースの株主資本で測定する点が特徴です。
連結財務諸表での取扱い
逆取得において連結財務諸表を作成する場合は、会計上の取得企業を取得企業としてパーチェス法を適用します。すなわち、法形式上の存続会社・完全親会社の側が連結上は「被取得企業」となり、その識別可能資産・負債を企業結合日の時価で評価して受け入れます(第28項)。取得原価が配分された純額を上回る差額はのれん(第31項・第32項)、下回る場合は負ののれん(第33項)として処理します。
個別財務諸表 | 連結財務諸表 | |
|---|---|---|
取得企業の資産・負債 | 適正な帳簿価額で引継ぎ | 帳簿価額(取得企業はそのまま) |
被取得企業(法形式上の存続会社等)の資産・負債 | 時価評価しない | 時価評価して受入れ |
のれん | 計上しない | 計上し得る |
留意点
- 判定の優先順位:逆取得かどうかは法形式ではなく会計上の取得企業の判定(第18項~第22項)が起点になる。議決権比率、最も大きな議決権比率を有する株主の存在、取締役会等の構成、株式の交換条件等を総合的に勘案する(第20項)
- 個別と連結の差異:個別では帳簿価額引継ぎ・のれん不計上、連結ではパーチェス法・時価評価という差が生じる。決算スケジュール上、個別と連結で算定基礎が異なる点に注意する
- 増加株主資本の算定:存続会社の増加すべき株主資本は、取得企業(消滅会社等)の株主資本を基礎とする。払込資本の内訳(資本金・資本準備金・その他資本剰余金)の決定には会社法上の手当ても必要
- 開示(第50項):逆取得となる企業結合では、第49項の通常の開示に加え、取得企業の資産・負債を企業結合直前の適正な帳簿価額により計上した旨を開示する。連結を作成しない場合の段階取得に関する開示(第51項)とも整理を分けて確認する
- 適用指針との併読:具体的な数値算定は企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」を併せて確認する
まとめ
逆取得の処理を整理すると、以下のとおりです。
ステップ | 処理内容 |
|---|---|
1. 取得判定 | 企業結合が「取得」に該当するか確認(第17項) |
2. 取得企業の決定 | 議決権比率・支配の実態で会計上の取得企業を判定(第18~22項) |
3. 逆転の確認 | 法形式上の存続会社・親会社と取得企業が逆転=逆取得 |
4. 個別の処理 | 存続会社等は取得企業の資産・負債を帳簿価額で引継ぎ(第34~36項) |
5. 連結の処理 | 会計上の取得企業を取得企業としてパーチェス法を適用 |
6. 開示 | 第49項に加え第50項の事項を開示 |
逆取得は、「法形式の主体」と「会計上の取得企業」が逆転するという一点さえ押さえれば、あとは形式(合併・吸収分割・株式交換)ごとに帳簿価額の引継ぎ先を確認するだけで処理の骨格が見えてきます。まずは自社の組織再編がどの形式に該当し、会計上の取得企業がどちらになるかを判定するところから始めてください。