はじめに

連結財務諸表を作成するうえで最初の関門となるのが「資本連結」です。親会社が子会社株式を取得した際に支払った投資額と、その裏付けとなる子会社の純資産(資本)は、企業集団内部の取引にすぎないため連結上は相殺消去します。このとき両者が一致することはまれで、ほとんどの場合に差額が生じます。この差額が「のれん」(又は「負ののれん」)です。

のれんは買収のプレミアム部分(超過収益力等)を表す資産であり、その後の償却を通じて連結損益に影響を与え続けます。M&Aが活発な企業集団では、のれんの残高が連結貸借対照表の資産の相当部分を占め、その償却負担が連結営業利益を左右することも珍しくありません。したがって、のれんを正確に認識し、適切に償却・表示することは、連結財務諸表の信頼性を支える基礎となります。

本記事では、企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」に基づき、のれんの認識から償却・表示、さらに追加取得時の取扱いまでを実務の流れに沿って解説します。なお、連結貸借対照表の作成に関する会計処理における企業結合及び事業分離等に関する事項は、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準の定めによります(第19項)。のれんの償却年数や表示の細目はこれらの基準に委ねられているため、本会計基準と企業結合会計基準を一体として理解することが重要です。

概要

のれんが連結上に現れ、その後処理されるまでの流れは次のとおりです。

1. 支配獲得日に子会社の資産・負債を時価評価(第20項)
    ↓
2. 評価差額を子会社の資本として取り込む(第21項)
    ↓
3. 親会社の投資と、これに対応する子会社の資本を相殺消去(第23項)
    ↓
4. 相殺消去で生じた差額をのれん/負ののれんとして認識(第24項)
    ↓
5. のれんは規則償却(負ののれんは発生時に利益計上)
    ↓
6. 連結B/S・連結P/Lに表示

ポイントは、のれんが「投資と資本の差額」という残余概念で定義されている点です(第24項、結論の背景 第64項)。投資と資本の相殺消去により生じた消去差額が、そのままのれん(又は負ののれん)とされます(結論の背景 第64項)。したがって、まず子会社の資産・負債を正しく時価評価し、親会社持分を確定させることが、のれんの金額を正確に把握する前提となります。

また、ここで認識される非支配株主持分は、子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分です(第26項)。のれんは親会社が取得した持分に対応する部分についてのみ認識され(購入のれん方式)、非支配株主持分に対応するのれんは計上しない点も、わが国の連結会計の特徴として押さえておきましょう。

具体的な会計処理

子会社の資産・負債を時価評価する(第20項・第21項)

支配獲得日において、子会社の資産及び負債のすべてを支配獲得日の時価により評価します(第20項)。時価評価額と個別貸借対照表上の金額(帳簿価額)との差額は「評価差額」として、子会社の資本に含めて扱います(第21項)。

なお、評価差額に重要性が乏しい子会社の資産及び負債については、個別貸借対照表上の金額によることができます(第22項)。

項目

帳簿価額

時価

評価差額

土地

100

150

+50

その他資産・負債(純額)

200

200

0

評価後の純資産(資本)

300

350

+50

この評価替えにより、子会社の資本(純資産)が時価ベースに修正されます。

投資と資本を相殺消去し、のれんを認識する(第23項・第24項)

親会社の子会社に対する投資(子会社株式)と、これに対応する子会社の資本は相殺消去します(第23項)。相殺消去にあたって差額が生じる場合には、当該差額をのれん(又は負ののれん)とします(第24項)。のれんの会計処理は、企業結合会計基準の定めに従います。

設例:親会社が子会社の発行済株式の80%を400で取得。支配獲得日における時価評価後の子会社資本は350とする。

  • 親会社持分に対応する子会社資本:350 × 80% = 280
  • 非支配株主持分:350 × 20% = 70(第26項)
  • のれん:投資400 − 親会社持分280 = 120

相殺消去仕訳(連結修正仕訳)

(借方)資本金・利益剰余金等(子会社資本)  350  (貸方)子会社株式(投資)      400
(借方)のれん                            120  (貸方)非支配株主持分          70

子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分は、非支配株主持分とします(第26項)。

負ののれんが生じる場合

投資額が親会社持分を下回る場合には、差額は負ののれんとなります。負ののれんは、企業結合会計基準に従い、発生した連結会計年度の利益(連結損益計算書上は特別利益)として一括計上します。のれんのように資産計上して償却するのではない点に注意が必要です。

設例:上記と同条件で取得価額が250だった場合

  • 負ののれん:投資250 − 親会社持分280 = △30 → 30を負ののれん発生益(特別利益)として計上
(借方)資本金・利益剰余金等(子会社資本)  350  (貸方)子会社株式(投資)      250
                                              (貸方)非支配株主持分          70
                                              (貸方)負ののれん発生益        30

のれんの償却

のれんは、企業結合会計基準の定めに従い、計上後20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。

設例:のれん120を10年で定額償却する場合、毎期の償却額は120 ÷ 10 = 12。

(借方)のれん償却額  12  (貸方)のれん  12

償却額の累計により、のれんの帳簿価額は毎期逓減し、償却期間の満了時にはゼロとなります。なお、のれんの未償却残高について収益性の低下により回収可能性が認められなくなった場合には、固定資産の減損に係る会計基準等に基づく減損処理の検討が必要となります。償却を行っていても、買収後の業績が当初想定を大きく下回る場合には、減損損失を計上して未償却残高を一気に費用化することがあります。

償却年数の決定:償却年数は、のれんの効果が及ぶと見込まれる期間を合理的に見積もって決定します。事業計画上の投資回収期間や、買収によって獲得した顧客基盤・技術等の有効期間などを根拠とすることが一般的です。一度決定した償却年数は、原則として継続して適用します。

経過年数

期首未償却残高

償却額

期末未償却残高

1年目

120

12

108

2年目

108

12

96

12

10年目

12

12

0

表示区分(連結B/S・連結P/L)

のれん・負ののれんの連結財務諸表における表示区分を整理します。

項目

表示する財務諸表

表示区分

のれん(未償却残高)

連結貸借対照表

無形固定資産

のれん償却額

連結損益計算書

販売費及び一般管理費(原則)

負ののれん発生益

連結損益計算書

特別利益

非支配株主持分

連結貸借対照表

純資産の部

連結貸借対照表は、資産の部・負債の部及び純資産の部を設け(第32項)、所定の区分に従って表示します(第33項)。

子会社株式の追加取得時の取扱い(第28項)

すでに支配を獲得している子会社の株式を「追加取得」した場合は、新たな支配の獲得ではなく、企業集団内の非支配株主との資本取引と位置づけられます。

子会社株式を追加取得した場合には、追加取得により増加する親会社の持分(減少する非支配株主持分)と、追加取得により増加した投資額(追加取得価額)との差額を、のれんではなく資本剰余金として処理します(第28項)。これは経済的単一体説に基づく考え方で、平成25年改正により、それ以前ののれん計上方式から変更されたものです(結論の背景 第65項、第53項(1))。

設例:上記子会社(時価評価後資本350、追加取得時も同額とする)の株式10%を追加で60で取得した場合

  • 減少する非支配株主持分:350 × 10% = 35
  • 追加取得価額:60
  • 差額:60 − 35 = 25 → 資本剰余金の減少
(借方)非支配株主持分  35  (貸方)子会社株式(投資)  60
(借方)資本剰余金      25

このように、支配獲得時には差額がのれん(資産)となるのに対し、追加取得時には差額が資本剰余金(純資産)となります。同じ「投資と持分の差額」でありながら処理が大きく異なるのは、支配獲得が企業集団外部からの取得(企業結合)であるのに対し、追加取得は支配獲得後の企業集団内部での非支配株主との取引(資本取引)と位置づけられるためです。

なお、子会社株式を一部売却した場合(支配関係が継続している場合に限る)にも、売却持分と増額する非支配株主持分との差額を資本剰余金として処理します(第29項)。追加取得(持分増加)と一部売却(持分減少)は、いずれも支配継続を前提とする資本取引として、対称的に資本剰余金で処理される関係にあります。

留意点

  • のれんは「残余」である:のれんは独立して測定される資産ではなく、投資と時価評価後の親会社持分との差額として導かれる(第24項、結論の背景 第64項)。したがって、子会社の資産・負債の時価評価(第20項・第21項)に誤りがあると、のれんの金額も連動して誤る
  • 本会計基準ではなく企業結合会計基準に従う点:のれんの償却年数・償却方法・減損・負ののれんの利益計上といった具体的処理は、第22号本体ではなく企業結合会計基準(及び事業分離等会計基準)の定めによる(第24項、第74項)
  • 追加取得は資本取引:追加取得差額をのれんとして処理しないよう注意する(第28項)。支配獲得時(差額=のれん)と追加取得時(差額=資本剰余金)で取扱いが異なる
  • 負ののれんの一括利益計上:負ののれんは償却ではなく発生時の特別利益として一括計上するため、生じた期の連結利益を一時的に押し上げる
  • 段階取得・支配獲得日の確定:複数回の取得を経て支配を獲得した場合や、支配獲得日の判定は企業結合会計基準と整合させて慎重に行う
  • 評価差額の重要性判断:子会社の資産・負債の評価差額に重要性が乏しい場合は個別貸借対照表上の金額によることができるが(第22項)、その判断は土地・有価証券等の含み損益の規模を踏まえて慎重に行う。評価替えの要否がのれんの金額に直結する
  • のれんの減損とのれん償却の関係:規則償却を行っていても減損の兆候があれば減損テストが必要となる。償却と減損は別個の論点であり、両者を混同しない
  • 連結固有の科目であること:のれんは原則として個別財務諸表には現れず、連結手続のなかで認識される連結固有の項目である(資本連結とは、親会社の投資と子会社の資本を相殺消去する一連の処理をいう。結論の背景 第59項)

まとめ

連結上ののれんの取扱いを整理すると、次のようになります。

局面

差額の性質

会計処理

支配獲得(第23項・第24項)

投資 − 時価評価後の親会社持分

のれん(資産計上・規則償却)/負ののれん(特別利益で一括計上)

のれんの償却

20年以内の効果の及ぶ期間で規則償却、原則として販管費

表示

のれん=無形固定資産、償却額=販管費、負ののれん=特別利益

追加取得(第28項)

追加取得価額 − 減少する非支配株主持分

資本剰余金(のれんとしない)

のれんは「投資と資本の相殺消去で残った差額」という一点を押さえれば、その後の償却・表示も理解しやすくなります。まずは支配獲得日の時価評価を正確に行い、親会社持分と非支配株主持分を切り分けるところから始めてください。