はじめに

退職給付制度は確定給付制度(DB)と確定拠出制度(DC)に大別されます。確定給付制度が退職給付債務や年金資産の見積り・割引計算を伴う複雑な会計処理を要するのに対し、確定拠出制度の会計処理は驚くほどシンプルです。

その理由は、確定拠出制度では企業の義務が「掛金を拠出すること」に限定され、拠出後の運用リスクを企業が負わないためです。本記事では、企業会計基準第26号第31項・第32項に基づき、確定拠出制度の会計処理と注記を実務目線で深掘りし、確定給付制度との違いを明確にします。

概要

確定拠出制度の会計処理は次のとおり、要拠出額の費用処理に集約されます。

1. 要拠出額の確定(第31項)
   └ 制度に基づき当期に拠出すべき額
       ↓
2. 費用処理(第31項)
   └ 要拠出額をもって費用処理
       ↓
3. 未拠出・前払の調整(第31項)
   ├ 未拠出 → 未払金(負債)
   └ 前払  → 前払費用(資産)
       ↓
4. 退職給付費用への含め込み(第32項)
       ↓
5. 注記(概要・費用額・その他)

第4条で定義されるとおり、確定拠出制度は「一定の掛金を外部に積み立て、事業主が当該掛金以外に追加的な拠出義務を負わない」制度です。この「追加義務がない」という性質が、シンプルな費用処理を可能にしています。

具体的な会計処理

要拠出額の費用処理(第31項)

第31項は、確定拠出制度について「当該制度に基づく要拠出額をもって費用処理する」と定めています。確定給付制度のように退職給付債務を算定するのではなく、その期に拠出すべき額(要拠出額)をそのまま費用とします。

基本の仕訳例:当期の要拠出額300万円を全額拠出(現金支払)した場合

(借方)退職給付費用  3,000,000  (貸方)現金預金  3,000,000

確定給付制度のような勤務費用・利息費用・期待運用収益・差異償却といった複雑な構成要素はなく、要拠出額がそのまま費用となります。

未拠出・前払の処理(第31項)

要拠出額と実際の拠出額にズレがある場合は、差額を負債または資産として調整します。

状況

処理

計上科目

要拠出額の一部が期末時点で未拠出

未拠出額を負債計上

未払金

要拠出額を超えて前払いした

前払額を資産計上

前払費用

未拠出がある場合の仕訳例:当期の要拠出額300万円のうち、250万円を拠出し、50万円が期末時点で未拠出の場合

(借方)退職給付費用  3,000,000  (貸方)現金預金  2,500,000
                                (貸方)未払金     500,000

前払いした場合の仕訳例:当期の要拠出額300万円に対し、翌期分50万円を含め350万円を前払拠出した場合

(借方)退職給付費用  3,000,000  (貸方)現金預金  3,500,000
(借方)前払費用       500,000

退職給付費用への含め込み(第32項)

第32項は、確定拠出制度に係る費用(前項=第31項の費用)を、第28項の退職給付費用に含めて計上すると定めています。第28項により、退職給付費用は原則として売上原価または販売費及び一般管理費として計上されます。

つまり、確定拠出制度の掛金費用も、確定給付制度の退職給付費用と同じく「退職給付費用」として、従業員の従事する部門に応じて売上原価または販管費に区分して計上します。

確定拠出制度の要拠出額
   → 退職給付費用に含める(第32項)
   → 売上原価 または 販売費及び一般管理費 として計上(第28項)

注記事項

確定拠出制度については、次の事項を注記します。

注記事項

内容

確定拠出制度の概要

採用している確定拠出年金制度等の概要

退職給付費用の額

確定拠出制度に係る退職給付費用の額

その他の事項

必要に応じて記載する事項

確定給付制度の注記(第30項の11項目)と比べて大幅に簡素で、調整表・計算基礎・年金資産内訳といった数理計算に基づく開示は不要です。確定給付制度と確定拠出制度を併用している企業では、両制度の注記をそれぞれ記載し、確定拠出制度に係る退職給付費用の額を区分して開示します。

確定給付制度の注記との簡素さの比較

注記の観点

確定拠出制度

確定給付制度(第30項)

制度概要

必要

必要

費用の額

必要

必要(損益の内訳)

債務・年金資産の調整表

不要

必要

計算基礎(割引率等)

不要

必要

年金資産の内訳

不要

必要

その他の包括利益関連

不要

必要(連結)

数理計算に依拠する開示が一切不要である点が、確定拠出制度の注記の特徴です。

なぜ確定拠出制度は費用処理だけで足りるのか

確定拠出制度の会計処理が要拠出額の費用処理に尽きる理由は、第4条の定義にある「事業主が当該掛金以外に追加的な拠出義務を負わない」という性質にあります。

確定給付制度では、約束した給付額と年金資産の運用結果との差を最終的に企業が埋めなければならないため、将来の支払見込みを退職給付債務として認識し、運用リスクを会計に反映する必要があります。一方、確定拠出制度では運用結果がどうであれ企業の義務は拠出額に限定されるため、拠出した(拠出すべき)金額を費用とすれば義務の履行が会計上も完結します。

確定給付:給付を約束 → 将来支払の見積り・割引・運用リスクの取込みが必要
確定拠出:掛金のみ約束 → 要拠出額の費用処理で完結(追加義務なし)

この「追加義務の有無」が、両制度の会計処理の複雑さの差を生む根本原因です。

拠出のタイミングと期間対応

要拠出額は「当期に係る額」で費用処理します。掛金の拠出タイミングと費用の帰属期間がずれる場合は、未払金・前払費用で調整して期間対応を図ります。

ケース

費用計上

調整

月次で当月分を当月拠出

各月の要拠出額

通常は調整不要

決算月の掛金を翌月拠出

当期の要拠出額

期末に未払金計上

翌期分を前倒し拠出

当期分のみ費用

前払費用計上

費用の額は「拠出した額」ではなく「当期に拠出すべき額(要拠出額)」で決まる点を取り違えないことが実務上の要点です。

確定給付制度との違い

確定拠出制度と確定給付制度の会計処理の違いを整理します。

比較項目

確定拠出制度(DC)

確定給付制度(DB)

企業の義務

掛金の拠出のみ(追加義務なし)

給付額の約束

運用リスク

従業員が負う

企業が負う

退職給付債務の認識

しない

する(割引計算)

年金資産の認識

しない

する(時価評価)

費用の計算

要拠出額そのもの

勤務費用+利息費用−期待運用収益±差異償却

数理計算上の差異

生じない

生じる(遅延/即時認識)

注記

概要・費用額・その他(簡素)

第30項の11項目(詳細)

見積り・割引計算

不要

必要

確定拠出制度では、退職給付債務・年金資産・数理計算上の差異・過去勤務費用といった確定給付特有の概念が一切登場しない点が最大の違いです。

確定給付制度から確定拠出制度への移行

退職給付制度の見直しで、確定給付制度の一部または全部を確定拠出制度へ移行するケースがあります。この移行は、本記事で説明した通常の要拠出額の費用処理とは別の論点を伴います。

移行時には、確定給付制度の退職給付債務のうち移行する部分について、退職給付債務の消滅を認識し、移行に伴う損益(退職給付制度の終了損益)を計上します。移行後は、確定拠出制度として要拠出額を費用処理する通常の処理に切り替わります。

移行前:確定給付(退職給付債務・年金資産を認識)
   ↓ 移行(退職給付債務の消滅・終了損益の認識)
移行後:確定拠出(要拠出額を費用処理)

移行時会計は退職給付制度間の移行等に関する適用指針に従って処理するため、通常の確定拠出の費用処理と混同しないことが重要です。移行の意思決定をした期には、終了損益の見積りと開示について早めに検討します。

フェーズ

主な会計処理

移行前

確定給付制度として退職給付債務・年金資産を認識

移行時

移行部分の退職給付債務の消滅・終了損益を認識

移行後

確定拠出制度として要拠出額を費用処理

中小企業向け制度での留意

中小企業退職金共済(中退共)や特定退職金共済など、外部に掛金を拠出し企業が追加義務を負わない制度は、確定拠出制度に準じた会計処理となる場合があります。制度の設計上、企業が運用リスクや追加拠出義務を負うかどうかで区分が決まるため、契約内容を確認して確定拠出・確定給付のいずれに該当するかを判断します。掛金を費用処理する点では確定拠出制度と同様ですが、制度ごとの設計差を踏まえた判定が前提となります。

留意点

  • 制度区分の判定が出発点:会計処理が根本的に異なるため、まず自社制度が確定拠出制度(第4条)か確定給付制度(第5条)かを正しく判定する。両制度を併用する企業ではそれぞれを区分して処理する
  • 要拠出額の期間帰属:費用は「当期に係る要拠出額」で計上する。賞与拠出など拠出タイミングと対象期間がずれる場合は、期間対応を確認して未払・前払を適切に計上する
  • 退職給付費用への含め込み:第32項により退職給付費用に含めるため、損益計算書上の表示区分(売上原価/販管費)を確定給付分と整合させる
  • 確定給付からDCへの移行:確定給付制度を確定拠出制度へ移行した場合は、移行に伴う退職給付債務の消滅損益等の処理が別途必要となる(移行時会計)。本記事の通常の費用処理とは区別する
  • 中退共・特定退職金共済等:制度の性格により確定拠出に準じた処理となる場合がある。制度設計を確認して区分を判断する

まとめ

確定拠出制度の会計処理の要点を整理します。

論点

要点

費用処理

要拠出額をもって費用処理(第31項)

未拠出・前払

未拠出=未払金、前払=前払費用(第31項)

費用区分

退職給付費用に含め、売上原価/販管費へ(第32項・第28項)

注記

概要・費用額・その他(簡素)

確定給付との違い

債務・年金資産・数理差異を認識せず、見積り・割引計算が不要

確定拠出制度の会計処理は「要拠出額をそのまま費用にする」ことに尽き、確定給付制度のような見積りと割引計算の世界とは対照的にシンプルです。まずは自社制度の区分を正確に判定し、要拠出額の期間対応と退職給付費用への含め込みを押さえることが実務の基本となります。