はじめに

税効果会計は、企業会計上の利益と税務上の課税所得との差から生じる、税金費用の期間帰属のズレを調整するための会計処理です。その出発点となるのが「一時差異」の把握であり、なかでも一時差異を「将来減算」「将来加算」のどちらに当たるかを正しく区分することが、繰延税金資産と繰延税金負債のいずれを計上するか(=税効果の向き)を決める鍵になります。

本記事では、企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」が定める表示・注記の枠組みも踏まえつつ、将来減算一時差異と将来加算一時差異の発生原因を具体例で対比し、税効果の向きの判断とスケジューリング・回収可能性への接続までを実務目線で整理します。

決算実務では、まず会計上の利益(税引前当期純利益)に、税務上の加算・減算項目を反映して課税所得を計算します。このとき加算・減算した項目のうち、将来反転して解消するものが一時差異であり、税効果会計の対象です。一時差異を正しく将来減算・将来加算に区分できれば、繰延税金資産と繰延税金負債のどちらを計上すべきかが自ずと定まります。逆にこの区分を誤ると、貸借対照表の資産と負債を取り違えるだけでなく、損益計算書の法人税等調整額の符号まで反対になってしまうため、税効果会計の入口として最も重要な論点といえます。

概要

税効果会計の基本的な処理の流れは次のとおりです。

1. 会計上の簿価と税務上の簿価(税務簿価)の差を洗い出す
    ↓
2. その差が「一時差異」か「永久差異」かを判定する
    ↓
3. 一時差異を「将来減算」「将来加算」に区分する
    ↓
4. 将来減算 → 繰延税金資産 / 将来加算 → 繰延税金負債(税効果の向きの決定)
    ↓
5. 法定実効税率を乗じて税効果額を算定する
    ↓
6. 解消スケジューリングと回収可能性を検討し、計上額を確定する

一時差異とは、会計上の資産・負債の額と、課税所得計算上の資産・負債の額との差額のうち、将来の期間に課税所得を増減させる効果を持つものをいいます。差異が解消するときに課税所得を減算させるものが「将来減算一時差異」、増算させるものが「将来加算一時差異」です。

差異の向きは、会計上の簿価と税務上の簿価(税務簿価)の大小関係と、その項目が資産か負債かの組合せで機械的に判定できます。資産については、会計簿価が税務簿価より小さい場合(評価減等で会計が先に減らしている場合)は将来減算一時差異、会計簿価が税務簿価より大きい場合は将来加算一時差異となります。負債については、会計簿価が税務簿価より大きい場合(引当金等で会計が先に負債を計上している場合)は将来減算一時差異、逆の場合は将来加算一時差異です。この対応関係を整理表として手元に置いておくと、決算時の判定がぶれません。

項目

簿価の関係

差異の区分

資産

会計簿価 < 税務簿価

将来減算一時差異

資産

会計簿価 > 税務簿価

将来加算一時差異

負債

会計簿価 > 税務簿価

将来減算一時差異

負債

会計簿価 < 税務簿価

将来加算一時差異

具体的な会計処理

将来減算一時差異とは(発生原因と具体例)

将来減算一時差異は、その差異が解消する将来の期に課税所得を減算させる効果を持つ差異です。会計上は費用・損失を先に計上しているのに、税務上はまだ損金として認められていない(将来認められる)状態が典型です。

代表的な発生原因

会計と税務のズレの内容

賞与引当金

会計で当期に費用計上、税務は支給時に損金算入

貸倒引当金(税務限度超過額)

会計の繰入額が税務の繰入限度を超える部分

退職給付引当金

会計で費用計上、税務は支給・拠出時に損金算入

棚卸資産・固定資産の評価損(税務否認分)

会計で評価損計上、税務は売却・除却時に損金算入

未払事業税

会計で未払計上、税務は申告・納付時に損金算入

これらは「会計が税務に先行して費用を認識している」ため、将来差異が解消する期に税務上の損金が追加で発生し、課税所得が減ります。その結果、将来の税金を前払いしている性質を持つため、繰延税金資産を計上します。

仕訳例:賞与引当金300万円を計上し、税務上は当期損金不算入(将来減算一時差異)。法定実効税率を30%とすると、税効果額は90万円。

(借方)繰延税金資産  900,000  (貸方)法人税等調整額  900,000

この仕訳により、当期の税金費用(法人税等+法人税等調整額)が会計上の利益に対応した水準に調整されます。

将来加算一時差異とは(発生原因と具体例)

将来加算一時差異は、その差異が解消する将来の期に課税所得を加算させる効果を持つ差異です。会計よりも税務が先に損金を認める、あるいは会計上は計上していない利益が将来課税される、といった状態が典型です。

代表的な発生原因

会計と税務のズレの内容

圧縮記帳(積立金方式)

税務で先に損金算入、会計は通常の減価償却

特別償却準備金

税務上の特別償却を準備金方式で積み立てる場合

その他有価証券評価差額金(評価益部分)

会計で純資産直入、税務は売却時に課税

連結上の子会社の留保利益(将来配当課税分)

将来の配当・売却時に課税される部分

これらは「税務が会計に先行して損金を認めた」または「会計が認識した含み益が将来課税される」ため、将来差異が解消する期に課税所得が増えます。その結果、将来の税金の未払いに相当する性質を持つため、繰延税金負債を計上します。

仕訳例:圧縮積立金により税務上先に1,000万円の損金算入が生じ、将来加算一時差異が発生(実効税率30%、税効果額300万円)。

(借方)法人税等調整額  3,000,000  (貸方)繰延税金負債  3,000,000

税効果の向きの整理

将来減算・将来加算と税効果の向きの関係は、次の表に集約されます。

区分

解消時の課税所得への影響

計上する税効果

性質

将来減算一時差異

減算(課税所得が減る)

繰延税金資産

税金の前払い

将来加算一時差異

加算(課税所得が増える)

繰延税金負債

税金の未払い

税効果額の算定式は共通で、次のとおりです。

繰延税金資産(負債)= 一時差異等の金額 × 法定実効税率

ここで用いる税率は、当期末ではなく一時差異が解消すると見込まれる期の法定実効税率です。税率変更が決定している場合は、解消見込年度に適用される税率を用います。

スケジューリングと回収可能性への接続

将来加算一時差異に係る繰延税金負債は、原則としてそのまま計上します。一方、将来減算一時差異に係る繰延税金資産は、「将来差異が解消する期に、減算できるだけの課税所得が見込めるか」という回収可能性の検討を経てはじめて計上額が確定します。

  • スケジューリング:各一時差異がいつ解消するかを期別に見積もり、解消スケジュール表を作成する
  • 将来加算との相殺:同一期に解消する将来加算一時差異があれば、将来減算一時差異と相殺できる
  • 将来の課税所得:将来の事業計画に基づく課税所得(一時差異等加減算前)で回収できるかを判定する
  • タックスプランニング:含み益のある資産の売却等、実現可能なプランも回収可能性の判断材料となる

回収可能と認められない部分は繰延税金資産から控除され、この控除額が「評価性引当額」です。企業会計基準第28号は、評価性引当額の合計額に重要な変動が生じている場合の変動の主な内容を注記事項として求めています(同基準が改正する税効果会計基準注解(注8)(2)、本会計基準第4項)。

スケジューリングの具体的な進め方は、おおむね次の流れです。

1. 各将来減算一時差異の解消見込時期を期別に割り付ける
    ↓
2. 同じく将来加算一時差異の解消見込時期を期別に割り付ける
    ↓
3. 期ごとに将来減算と将来加算を相殺する
    ↓
4. 相殺しきれない将来減算部分を、将来の課税所得(一時差異等加減算前)で回収できるか判定
    ↓
5. 回収できない部分を評価性引当額として控除

将来加算一時差異は、同一期に解消する将来減算一時差異の回収可能性を支える役割も持ちます。たとえば、ある期に将来減算一時差異が解消して課税所得が減る一方、同じ期に将来加算一時差異が解消して課税所得が増えるなら、両者は相殺され、将来減算分の回収可能性が裏付けられます。このため、繰延税金資産の計上判断では、将来減算だけを単独で見るのではなく、将来加算とのスケジュール上の対応関係まで含めて検討することが重要です。

留意点

  • 区分の起点は税務簿価との比較:一時差異は会計上の簿価と税務簿価の差から把握する。差異の符号(会計簿価が税務簿価より大きいか小さいか、資産か負債か)で将来減算・加算の向きが決まるため、機械的な符号判定の整理表を持っておくと誤りを防げる
  • 永久差異は対象外:交際費の損金不算入額や受取配当金の益金不算入額などの永久差異は、将来にわたって解消しないため一時差異ではなく、税効果の対象にならない
  • 解消年度の税率を用いる:税率変更が決定した場合、変更後税率で繰延税金資産・負債を再計算し、その差額は当期の法人税等調整額(OCI項目に係るものはその他の包括利益)で調整する
  • 表示区分:企業会計基準第28号により、繰延税金資産は投資その他の資産、繰延税金負債は固定負債の区分に表示し、同一納税主体のものは相殺して表示する(本会計基準が改正する税効果会計基準 第三 1.・2.)
  • 回収可能性は毎期見直す:将来の課税所得の見込みは事業環境で変動するため、繰延税金資産の計上額は毎期末に見直す必要がある

まとめ

一時差異の区分と税効果の向きを整理すると、以下のとおりです。

観点

将来減算一時差異

将来加算一時差異

代表例

賞与引当金・貸倒引当金超過額・退職給付引当金

圧縮積立金・特別償却準備金・その他有価証券評価益

解消時の課税所得

減算

加算

計上する税効果

繰延税金資産

繰延税金負債

計上時の追加検討

スケジューリング・回収可能性

原則そのまま計上

税効果会計は「一時差異をどちらに区分するか」を誤ると、資産と負債を取り違える致命的なミスにつながります。まずは会計簿価と税務簿価の差を洗い出し、将来減算・将来加算のどちらかを判定し、将来減算については回収可能性の検討まで一連の流れで押さえることが実務上の出発点です。